ふゆといふ

それが　寒いというものである

侘びしきと思しき　おもいのかさぬるる夕べ

それが　季節のうつろいと、心の虚ろである

凍うればよかろう、友よ
無一文とは懐ばかりではないことを
知りうればよかろう、友よ

我武者羅に走り、いかばかり里より離れえたのかを
わたくしに訓えるがよい
未だわたくしの眼に映る影は、誰の影であるかを
わたくしに諭すがよい

秋の逢魔を見晴るかす、風を追うはまやかし

友よ、それはふゆといふ

寒かれば、虚ろ、ふゆといふ

春暦 -ハルゴヨミ-

湧き上がる 春の匂い
花開く音の忍び寄る明け方
真四角の天井が見えた
珍しくこんな時間に目を覚まし
出たことも無いベランダへ立った

寒くない 春の朝
水にまみれた空は少し面映く
ついに途絶える夜の気配を見晴るかす
深呼吸 土の中から吐き出され
新たな季節が顔を出した

夕暮れ

この道ももう歩けない
夕映えの生える南の植物と 公団の群れ
私は今日 去るだろう
夕暮れ時を待たずに

硫黄の匂いに満たされた町を見て
目を閉じる

思い出

たった今の 思い出はいつ思い出すだろう
いつ思い出になるだろう
明日はもう 今日が思い出なのだろうか

何かいつもが思い出にはならないのだとしたら
すべて忘れてみたい
すべて忘れたことが私の思い出になるだろうか

雨上がり

ざさざさと降りつづけた雨のニオイ

太陽は知っているだろうか

アスファルトから立ち上る むせ返る 雨のニオイ

風に巻き上がり 運良く上昇気流にのって

届くよう もう少し待ってみよう